患者様の心を捉える外来術

患者様ザクザクを職人の視点で考える

一人の職人として患者様ザクザクを達成するために必要なものは何でしょうか。

それは『患者様の心をつかむ術』です。

いかに患者様に

 

『ああ来てよかった』

『この先生なら信頼できる』

『良い先生に出会えてよかった』

『こんな良い先生がいるなんて』

『なんだか生きる希望が湧いてきた』

『○○さんにも教えてあげよう』

『大切な家族をつれてこよう』

『とても安心した』

 

と思ってもらえるか。これが患者様の心をつかむということです。

そのために私達はどのような意識をもち、何を知識として知り、どんな技術を訓練し磨かなくてはならないのでしょう?

 

素早く患者様の心を捉えるための4つのSTEP

『キャラ』に依存することなく、誰にでも一定した効果がでるようなやり方とは何か。私が考えたのが下記の4STEP方式です。実際にやってみましたが、結構使えます。

 

STEP 1. 第一印象を勝ち取る

STEP 2. 真の需要を探る

STEP 3. 解決策を提示する

STEP 4. クロージング

 

この4STEPが、短時間で患者様の心を捉えるための必要条件です。

是非、皆で研究しましょう。

 

STEP 1.  第一印象を勝ち取る

重要な法則を提示します。

 

『人は見た目が9割』

 

現在信愛クリニックに勤務してくださっている医師は定時で15名、『スポット勤務』といって井出が不在な土日を中心に臨時勤務をする医師が月に3〜4名います。私達が過去10年で共に働いた医師は200名を越えます。

人気のある先生は会計カウンターで患者様の反応が違います。

『あの先生は今度いつ来るのですか?』

と患者様が喰いついてくる医師の外来はすぐ枠が予約でいっぱいになります。一方で人気の無い医師の外来枠は結構空きがでてしまう。

そんな現実を見続けるうちに恐ろしいことが判明しました。

 

新しく着任した今日の先生は良い先生なのかどうか、なんと第一印象でわかってしまうのです。ぱっとみて挨拶しただけで、この先生が人気がでるのかどうか私だけでなくスタッフにもわかってしまうのです。

患者の心を捉えるかどうかの大部分が、STEP1(第一印象獲得)で決まってしまいます。

第一印象を崩すことは難しい。そして私達の多くがここで油断して負けています。

第一印象を勝ち取るには、区切りが3つあります。

 

  • 最初に会って3秒以内に大体決まり、
  • 会ってから10秒以内にほぼ確定し 
  • 会ってから30秒以内に完全に固まる

 

これが第一印象の恐ろしさです。

逆にこの短い時間にエネルギーを集中すれば、良い第一印象を得ることができます。

 

一番重要なのは最初の3秒以内です。

 

3秒勝負

 

⑴ 笑顔(表情)

⑵ あいさつ

⑶ 身だしなみ

⑷ 話し方

⑸ 態度

 

まずは立って患者様を迎えること。呼ぶときの声の量と質、笑顔。患者様にはじめてかける言葉。身のこなし。目の動きと、姿勢、そしてルックス!匂いや爪の手入れも重要です。

 

髪型、眉の形、顔の手入れ、眼鏡、服装。よほどイケてる人でない限りいずれか、または全てを改善しましょう。

清潔感を表現することが決定的に重要です。

髪にフケがあって、肩に落ちていたりしたら全てが台無しです。良いですか、全てが台無しなのです。あなたが重ねてきた勉強や訓練や経験の全てが、肩のフケでパーです。

顔の無精ヒゲも、しわの寄ったシャツ、シミのついた白衣、ギトギトに汚れた眼鏡、そんなことが台無しにつながっている。そう私達はホストやホステスではありません。美を競う必要などありません、『台無し』にしなければ良いのです。

 

笑顔の効用

接遇の全ては『笑顔』につきるといってよいほど重要です。慣れないうちは自分の笑顔が『引きつっているのではないか』と気になるものです。『仮に引きつっていたとしても構わずにとにかく笑顔をぶつける』覚悟が求められます。

日本人には無い技術ですが、とても有効なので必ず習得してください。

 

患者様は立って迎える

また患者様は立ってお迎えすることをお勧めします。立ちあがって、心を込めてお辞儀をする。ご高齢の患者様が座るときには手を貸します。さりげなく触れているあなたの手は、患者様の心に届きます。もしも椅子にふんぞり返って、あごをしゃくるように話をしたとしたら、いくらルックスをチューンしたとしても全ては台無しになります。

患者様を迎えるたびに立ち上がると、運動としても実は意味があります。ずっと椅子に座りっぱなしでいるよりも、1日60回のスクワット(立ち上がりお迎え)をしている方が実は疲れは少ないのです。

 

あいさつはこちらから

挨拶は必ずこちらから、相手の目をみてキメてください。こちらから『開いていますよ』と伝えることで、患者様は開きやすくなります。あなたの在り方が問われる瞬間です。自分で自分をどうみているか、自分が患者様をどうみているかが現れます。

 

10秒勝負

3秒をすぎたら、今度は10秒勝負です。最初の10秒では『話す言葉と内容』が問われます。

このときのあなたの声をコントロールしてください。声の質と量で伝達力は大きく変わります。あなたが話をしたとき、話の内容を患者様はちっとも覚えていなくても、あなたの声についてはよく覚えているものです。

喉をよく開けて、腹式呼吸で、胸に響かせる『チェストボイス』を用います。声が弧を描いて相手を包みこむようなイメージで発声しましょう。

しっかりと目をみて、『プラス1秒のアイ・コンタクト』を実践します。これは話を聴くとき、話をするときに、1秒だけ余計にアイ・コンタクトを残すのです。

 

メラビアンの法則とは、メッセージを伝えるときにセリフの内容が果たす役割は7%に過ぎず、声質や口調などの聴覚情報が38%、見た目などの視覚情報が55%であったというものです。すなわち

何を語るかよりも、どう語るか

7%とはいえ、言葉も重要ですね。

もちろん最初の10秒に使う言葉は、相手に反応して使う言葉ではなく、こちらがあらかじめ選んだ言葉です。

『○○様、こんにちは!大変お待たせいたしました。今日は遠方からよく来てくださいました。どうぞこちらにおかけください』

 

診察室の環境整備

診察室はあまり広い部屋ではないことが多いため、匂いがこもります。自分の体臭などは全く自分では気づかないものです。換気に気を配りましょう。女性スタッフの力を借りてアロマなどの環境をつくるのも有効です。

 

30秒勝負

10秒で与えた第一印象は30秒で固まります。患者様に向き合った最初の瞬間だけ、しっかりと身体を開き、目をみて、声質を意識してしっかりと会話しましょう。

短い診察時間の間に、過去のカルテをチェックし、記録を行い、処方を記入し、と作業は沢山あります。ずっと患者様に向き合っている訳にはいかない。最初の一瞬だけグッと向き合って信頼関係をつくれば、あとはカルテに向かっていてもなんとかなります。

 

 

◇ 初診患者様の場合

初診の患者様の場合には、

『よく相談にきてくださいました』

『それは辛かったですね』

『よくがんばりましたね』

といった台詞を必ず用います。

これを『承認のセリフ』といって、非常に重要です。

承認とは、患者様がどんな辛さをもっているのかを理解していますよ、と患者様に伝えること。患者様がどんな気持ちや感情をもっているのかをあなたが捉えていると患者様に伝えること。そんな気持ちや感情を持っていて良いのですよ、と患者様を認めてあげることです。

 

例えば、ごく普通の喉風邪であっても、患者様が『喉が痛くて痛くて・・』といったときに、『喉が痛いくらい大した事ないよ、どうせ上気道炎だろう』と他人事のように判断するのではなく、『そうか喉が痛くて辛かったんだな』と認識すること。そして喉をちらっと診察したときに、『あぁこれでは辛かったですね』と必ず言うこと!さほど発赤していなくてもそう言うのです。ちらっと喉をみて、このようなセリフを言う一連の行動は、医学としての診察をしているのではなく、患者様とつながるための医療としての作業なのです。

 

さほど炎症があるように見えないときは

『あぁこれでは辛かったでしょう。でもあまり高い熱にはならなさそうですよ』と言っても良いでしょう。患者様にとっては

①自分の辛さを理解してくれた

②重症かもという不安に対して保証がもらえて安心した

という効果が得られて医師に対する信頼感が一気に高まります。

 

  • 再診患者様の場合

再診患者様の場合は、キーワードから入ります。例えば前回の外来で『来週台湾旅行にいく予定』と聞き出していたとしましょう(このような情報は必ずカルテに記載しておくこと!)。

患者様が椅子に落ち着いたところで

『○○さん、台湾旅行はいかがでしたか?』と切り出す。

個人的な、その人にとっては重要なイベントや事情、出来事であると良いです。

このように『キーワードアプローチ』をすると、一瞬で前回診察との間の時間を埋めることができます。キーワードのポイントは

⑴ 重要な予定

⑵ 楽しい予定

⑶ 好きなこと

⑷ 大切にしていること

⑸ 大きな気がかりや負担

 

のどこかにあります。こちらから質問してそれを探りだすのです。

探り当てたら必ず承認してください。

『それは楽しみですね』

『うまくいくと嬉しいですね』

『それは気がかりですね』

などです。

 

さあ、第一印象の大切さが伝わったでしょうか?

たったの3秒、せいぜい30秒の勝負ですが、大きなエネルギーをつぎ込む価値があります。

第一印象の改善は、決して浅薄な話ではありません。

あなたの生き様、価値観、性格、人格、そして能力までをも患者様はごく最初のうちに見抜いているのです。第一印象を改善するとは、あなたの人間性を改善することといっても良いでしょう。

第一印象に関しては『ありのまま』であってはいけないということ。

女性でいえばスッピンで外出するようなものです。

目的と意図をもって、第一印象をしっかりデザインしてください。

 

ほめる技術

私達はほめることをためらいます。

『ヘンに褒めて、アヤシく思われたらどうしよう』

『スベるんじゃないか』

と心配してしまいます。

そこで重要なポイントをお伝えします。

 

論理では意味がわからないかもしれませんが、実践してみると体感することです。

  • 私達と患者様は同じです。
  • 私が患者様を褒めているときは、私は私を褒めています。
  • 私が患者様を責めているときは、私は私を責めています。
  • その証拠に私が患者様を褒めると私の気分はよくなり、私が患者様を責めると私の気分は悪くなります。
  • だから相手の褒めるポイントを一生懸命探す作業は、私が私を認めるポイントを探す作業に相当します。

 

一生懸命褒めるポイントをみつけて、それを言葉にして伝えましょう。

かならず良いことがおきます。

ほめる語彙を豊かにしておくことも重要です。

詳しくは参考文献をご覧ください。

 

STEP 2 患者様の真の需要をつかむ

患者様の真の需要とは

 

①○○なのではないかと不安

②○○を治して欲しい

のいずれかで構成されています。患者様の真の需要と主訴は異なります。

 

例えば、『胃が痛い』と受診した患者様の場合、真の需要は何でしょうか?

①父と同じように胃癌になったのではないかと不安

②食べた後に胃が痛くなるのは不快なのでこれが治ることを望む

 

①と②が入り交じったものが患者様の『真の需要』です。真の需要を早い段階でつかみましょう。

真の需要をつかまない限り、患者様とつながることはできません。ほとんどの場合は『○○なのではないかと不安』が存在するので、『この人の不安は何だろう?』と探してゆくことがポイントです。そのための質問として下記をおすすめします。

 

  • 一番気になる症状は○○ですか?
  • その○○でどういう風に困っていますか?
  • ○○の原因も気になりますか?
  • ちかぢか気になるご予定はありますか?
  • 他に何かありますか?

 

これらの質問と、患者様の非言語的表現をよく読み取ることで真の需要をつかみましょう。

真の需要をつかむと、必ず患者様は非言語的に反応します。

例えば『そうですか、お父様がそのような経験をされたのであれば、あなただって気になりますよね』と言ったとき、これがヒットしていれば患者様は『我が意を得たり』というような表情や動きを必ず見せます。これが確認できたらSTEP2は完了です。

驚くことに、患者様自身が真の需要を明確に意識していないことも多いのです。

第一印象を勝ち取り、真の需要を把握したら、もうほとんど患者様のハートを射止めたも同然です。

 

 

 

STEP 3 解決提示

『真の需要』に対応して解決提示があります。胃癌になったのかどうか不安に感じているのであれば、内視鏡検査、という風に。

多くの場合

 

  • 検査
  • 治療
  • 保証

 

のどれかを提示します。STEP2でつかんだ『真の需要』に応える形で提示することです。

例えば『父のように胃癌になってしまったのではないかと不安』が真の需要であれば、

下記のように提示します。

 

『そうですか、近しい方にそういった病気があれば、どうしたって気になりますよね。では検査をして安心しましょうか。』

 

『そうですか』は、患者様の言葉を受けるセリフです。『なるほど』や『そうですか』といった言葉が『受けるあいづち』です。

 

『近しい方に〜どうしたって気になりますよね』は患者様が感じている感情を言語化して返すセリフです。感情を言語化して返すのはすごく重要なプレーであり、正確・妥当に患者様の感情をとらえられたら、一気に信頼獲得につながります。

 

『では検査をして安心しましょうか』で提示を行います。

 

これをパターンとして提示すれば

 

相づち→承認→提示

 

ということになります。

このパターンは外来で頻用しますので是非身につけましょう。

 

たとえば会話の主導権を得るために、話続けようとする患者の話を止める技法として

 

相づち→承認→質問

 

があります。すなわち患者と交わす会話の基本は

相づち→承認→アクション になります。

 

有効に解決提示するために下記を意識しましょう。

 

⑴ 明確さ

⑵ 需要にまっすぐ応える

⑶ 自信と確信

⑷ 希望の提示

⑸ 未来を明るく描述する

 

つまり、一歩踏み込んでリスクをとるのです。

 

『よくならない場合もあるかもしれません』

 

などと曖昧なことをいって逃げようとするとその姿勢を患者様は敏感に感じ取ります。根拠などなくても患者様から訊かれる前に

 

『きっと良くなりますよ!』

 

と断言してあげることは、あなたが考えるほど危険ではなく、患者様とつながる力になります。

 

STEP 4  クロージング

セールスの世界では、クロージングは最も重要な言葉といって良いでしょう。セールスにおけるクロージングとは、最後に契約の同意をとりつける会話をいいます。どんなに一生懸命商品説明をしても、最後に『買います』という同意をとりつけなくてはセールスになりません。では『患者の心を捉える外来』におけるクロージングとは何でしょうか。

それは『再来を約束する』です。

 

  • 患者様に感謝と承認の言葉をかける
  • 再来を約束する
  • お別れのあいさつ

 

感謝と承認の言葉として私が使っているのは、

 

『今日はよくきてくださいました。早くよくなってくださることを願っています』

『拝見できて嬉しかったです。幸せになってくださいね』

『ご相談くださって感謝します。きっと次はもっと良くなっていますよ』

 

といったセリフです。

あまり日常生活では言わない言葉ですが、診察のときに心を込めていうと、良い雰囲気になります。『幸せになってくださいね』と言うと患者様はハッとすることもあります。

 

再来予約とは

『では、また2週間後にお待ちしてます。よろしいですか?』と確認します。

これがクロージングです。

 

そして

『気をつけてお帰りくださいね』と挨拶して終了です。

 

終わりよければ全てよし。私達はつい、クロージングをおろそかにしています。

最後に心を込めて、再来を約束してください。